2015年08月13日

佐藤勇治先生・博子先生

 先週の8月6日、無菌体百日咳ワクチンを開発された佐藤勇治・博子先生ご夫妻が研究室を訪問してくださった。佐藤ご夫妻と懇意にされている目加田先生と松浦先生の発案で、「ボルデテラ今昔懇話会」と銘打って当研究室の仕事をネタに、百日咳研究にまつわる四方山話をしていただくことになっていたのだ。

 百日咳ワクチンは1950年代に全菌体を成分として実用化され、そのおかげで百日咳患者は世界的に激減した。しかし、免疫付与能の高い製品ほど副作用も強いといわれ、実際に副作用による事故が社会問題となっていた。日本では副作用が原因でしばらくワクチン接種が見合わされ、その後に百日咳の爆発的な再流行を経験している。佐藤ご夫妻はこの問題を解決する副作用のほとんどない無菌体の成分ワクチンを開発された。このワクチンは1981年に世界に先駆けて我が国で実用化され、再び百日咳を激減させた。やがてこの無菌体ワクチンは世界的に普及した。今ではこのワクチンを「佐藤ワクチン」と呼ぶ国もあるほどで、佐藤夫妻は「微生物の狩人」として、例えば国内では北里柴三郎先生や志賀潔先生と並び称されてもおかしくない業績を挙げられたのである。

 私が論文の上で佐藤先生ご夫妻のことを知ったのは1986-7年。たしか博士課程の最終年次の頃だった。実際に初めてお会いしたのは、おそらく次の年。私が北里研究所附属家畜衛生研究所に研究員として勤務を始めた年だった。このとき、私の所属した部署が佐藤先生にあるサンプルの抗原解析をお願いしたのだが、お送りしたサンプルに手違いがあって先生にご迷惑をお掛けした。そのことでまず博子先生から電話でお叱りを受け、そしてそのお詫びと説明に、なぜか新米研究員の私が、当時の国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)の佐藤先生の研究室につかわされたのだった。いま思えば、そのときの責任者が自ら出向くのを嫌がったのだろう。その時、ひとしきりお詫びする私に向かって、憤懣やるかたない勇治先生は「キミのようなものが来て何ができるっ!? なぜ一人前の者を寄越して来んのかっ」と激しい口調で言い放たれた。それは当然のことだったのだが、私には勇治先生がとりつく島もない厳しい人に見えた。

 その翌年。青森の大鰐温泉で開催された毒素シンポジウムで、再び佐藤先生にお会いした。このとき佐藤先生は、その前年にお会いした時とはうって変わって「堀口さん、、こちらに来てご一緒しませんか?」と優しく昼食に誘ってくださった。そして、前もって配付されるシンポジウムの抄録集を開いて「DNT の精製の抄録を読んだ(当時の毒素シンポでは、図表や引用文献の挿入された詳しい抄録が配付された)けれど、何十年も誰も精製できなかったこの毒素をよく精製できたね」と言ってくださった。「キミのような者」から「堀口さん」に扱いが変わったのに面食らい、さらに DNT の精製の仕事をお褒めいただいて今度は感激した。これをみて佐藤先生のことを、態度の豹変する気むずかしい人物とかんがえるのは間違いだ。そうではなく、この先生は仕事だけを見てらっしゃるのである。この時も、私ではなく私のした仕事をお褒めくださったのだ。だから私などは「キミのような者」でも「堀口さん」でもどちらでもよいのである。研究者として誠に真っ直ぐな方である。私はそう感じた。

 国立予防衛生研究所を定年退職されたあと、私は勇治先生とも博子先生とも一度ずつ学会などでお会いした。それからおそらく10年以上の月日が経っていたと思う。この日お会いした佐藤先生ご夫妻は終始柔やかで、当研究室のメンバーの拙い発表を楽しそうに聴いてくださり(ラボのボスとしては冷や汗ものであった)、また率直にご意見をくださった。

 現在、百日咳感染は世界的に増加傾向にある。それは無菌体百日咳ワクチン接種の普及した国においても同様で、このことは無菌体ワクチンの見直しや改良といった問題提起を生んでいる。そのことに話が及ぶと、佐藤ご夫妻は現役の研究者の目になって、開発当初から無菌体ワクチンには改良が必要であることを予見していたことや、百日咳ワクチン開発の現況について色々とお話をしてくださった。私にとっては大変収穫のある懇話会であった。

F0000043.jpeg 最後に、佐藤先生ご夫妻と、懇話会発案者の目加田所長と松浦副所長、それから研究室のメンバーで一緒に集合写真を撮った。もし将来に、当研究室から百日咳ワクチンに関わる重要な仕事が出たら、これは記念碑的な集合写真になるだろうと思ったが、、、そんな日が来るのやらどうやら、、。それはきっと私の定年までわからない。


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posted by Yas at 19:12| Comment(0) | 私的先生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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