2015年07月25日

Prof. Alan Hall

 Prof. Alan Hall が亡くなった。 今年の5月3日、ジョギング中に心臓発作を起こしたらしい。その訃報は Nature Cell Biology,  EMBO J や J Cell Biol などの誌上で、追悼文とともに生命科学界に伝えられた。それを見て驚いて、「Alan Hall さんが亡くなったらしいっ」と研究室で触れて回ったが、今の研究室には Alan Hall 先生のことを知る者がいなかった。でも、それも仕方ないことかもしれない。私が Prof. Alan Hall と関わりを持ったのはずいぶん昔のことなのだ。

 Prof. Alan Hall は、Rho ファミリー GTP 結合タンパク質が細胞の形や運動を制御をする分子スイッチであることを発見した人である。細胞の運動や形は、細胞骨格と呼ばれる構造物のひとつを構成するアクチンという分子の重合と脱重合で左右される。1992年、Prof. Hall は、当時ポスドクだったらしい Ridley さん(Ridley さんがポスドクだったことは上記の追悼文で初めて知った)と連名で、この発見を Cell 誌に報告した。私は当時、DNT という細菌毒素が宿主細胞に作用してアクチン系骨格の構築を促進するという、当時の知見では、この先いったいどうしたものやらと途方に暮れるような実験結果をもてあましていた。そんな私に、この論文は完璧な回答を与えてくれたのである。

 、、そうか、じゃぁターゲットは Rho 関連の情報伝達分子かも、、と考えて(誰でも考えるけど)、その後に世界中の細胞生物学者から次々と報告されはじめた Rho の機能や構造に関する研究を後追いすることによって、DNT の作用機序を全て調べ上げることができた。そして、その時の成果を論文投稿した Nature 誌の査読者から求められた追試をするために、p50 RhoGAP という分子がどうしても必要になった。私はその発現プラスミドを譲って貰うために Prof. Hall に手紙を書いた。プラスミドは数週間後に送られてきた。そのプラスミドには、「ごめんね、送るのが遅くなって。、、、頑張ってね」という内容の、 Alan Hall のサインの入った手書きの手紙が添えられていた。Prof. Hall ほどの人なら、ラボのメンバーに発送手続きをさせることもできただろうし、秘書に手紙をタイプさせることもできただろう。しかし、その手紙は彼の自筆(だと思う)の手書きだったのだ。 当時、徒手空拳で仕事をしていた私にとって、この手書きの手紙はなによりの励ましになった。

 それから数年後。Prof. Hall の講演が本学医学部で催された。その日、私は何かの所用で講演の開始に間に合うことができず、遅れて慌てて会場に入った。その時ちょうど会場で映し出されていたのは、「ボルデテラ壊死毒(DNT) は Rho を活性化する」と大書されたスライドだった。Prof. Hall はそのスライドを使って Rho の研究に関する背景を話していたのだ。会場が大阪大学なので、大阪大学所属である私を気遣ったリップサービスだったのだろうが、それにしても私の所属と仕事を覚えていてくれたことに感激した。

 こうした僅かな一連の出来事だったが、それで私は Prof. Hall の思いやりのある人間性を感じた。その私の印象が正しかったことは、彼が亡くなって学術誌に掲載された追悼文を読んで初めて知ることができた。ついに私は、彼と直接に話をする機会を得ることがなかった。

 ところで今日、実は先ほど札幌出張から帰ってきたところである。用務は、北海道大学の人獣共通感染症リサーチセンターでの英語講演だった。獣医系の研究センターでの講演ということで、古い話だがあえて DNT の作用機序の話を盛り込んだ(DNTはブタの病気の症状に深く関係する)。だが講演の出来は良くなかった。色々とあって準備が不充分で、最終稿ではないスライドファイルを使って講演をしてしまい、講演途中で意味不明のスライドを映写してしまうという失態を犯してしまった。そればかりか、本番で一度も使ったことのないリモコンポインターを使って、スライドやアニメーションの切り替えを何度もミスした。おまけに私自身がなぜか講演に集中できず、研究のポイントをうまく伝えられなかったり、喋っている最中に何度も英語が破綻したりした。要するに、忙しいからといって準備を怠るとこういう事になる、、という典型的な拙いプレゼンの例を自分で演じてしまったのである。

 Prof. Hall さんの追悼をこのブログで書こうと決めていて、その Hall さんの助けを受けて達成できた研究成果の講演を上手く仕上げることが出来なかった。なんだか彼に申し訳ない気持ちでこの文章を書いている。、、もっとも、Hall さんは私のことなど何も気にかけていないと思うけれど、、。

 謹んでご冥福をお祈りいたします。


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posted by Yas at 18:55| Comment(0) | 科学的日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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