2012年12月29日

クリスマス・イブ

 先日のクリスマスイブでのこと。次の日にGCOEの成果報告会のための出張を控えて、済ましておくべきことを片付けるため、私は自宅でほとんど一日いろいろと仕事をしていた。夕方になって、が愛犬ミューを散歩に連れ出した。このとき娘はしばしば自転車で出かけることがある。それでは犬の散歩にはならないので日頃から徒歩で出るように言っているのだが、この日は仕事に一生懸命で、そちらに気を配ることができなかった。そのすきに、どうやら自転車で出かけてしまったようだった。

 そして、娘は出て行ったきり、なかなか帰ってこない。真冬のことで日没は早い。家内が携帯電話で帰るように言って、ようやく帰ってきたのは外がすっかり暗くなってからのことだった。ところが、犬連れで戻ってきたものの、自転車がない。娘は歩いて帰ってきたのだった。「どうしたの?」と尋ねても要領を得ない。「『武庫之荘・子供広場』に置いて来た」というばかりである。武庫之荘は、自宅のある場所から少なくとも2-3 kmは離れている。

 両親には「自転車を置いてきた」の意味がわからない。娘は自転車のカギを持っていなかった。とすると、カギをつけたままの自転車を放置してきた、ということになる。とにかく、置いてきたという自転車を取りに行こうと、娘を乗せて武庫之荘方面にクルマを走らせることにした。私の仕事はまだ残っていたのだが、仕方ない。

 クルマの中で、娘は盛んに口の中に指を入れて、口の内側と外側から頬をつまんでいる。これは彼女の緊張のサインである。私に叱られると思っているのだろう。とにかく、その「武庫之荘・子供広場」に行かなければならない。しかし、彼女のナビゲーションは、どうも行き当たりばったりでとても特定の場所に近づいているようには思えない。おそらく適当に「右、まっすぐ、左」と言っているだけなのだろう。案の定、クルマは彼女の目的地にたどり着くことなく、むなしく武庫之荘周辺をグルグル回るだけだった。途中、出会ったパトカーに「『武庫之荘・子供広場』ってどこかにあるんでしょうか?」と尋ねたが、「わからない」という。

 娘は自転車で出たので、クルマの走れないもっと細かなコースを辿ったのかもしれない。それなら、クルマでナビゲートできないのも無理はない。あるいは、彼女にはもうすでに場所が特定できないのかもしれない。「武庫之荘・子供広場」というのも、本当にあるのかどうかわからない。家内は、「自転車は犬の散歩中に盗まれたんじゃないか」と云う。それを誤摩化すために、「武庫之荘・子供広場」に置いてきたと作り話をしてるのではないか、、。確かにそうかもしれない。私も少し、自転車をあきらめかけた,,。

 しかし結論するにしては、わからないことが多すぎる。そこで考えた。クルマよりも徒歩の方が、彼女の感覚もよみがえりやすいかもしれない。そこでクルマを家に置いて、娘と二人で歩いて自転車を探すことにした。夜に入って外は寒い。白い息を吐きながら「自転車で行った通りに歩いてね」と娘に言って先導させる。相変わらず娘は緊張の面持ちだ。場所のヒントをつかもうと、色々と話しかけるが、彼女の返答は相変わらず要領を得ない。今まで何度も味わってきたことだが,こんなときでも娘と意思疎通できないのは本当に悔しい。

 しかし30分ほどかけて、クルマで通ったのとほぼ同じ道筋を歩いていると、ふと娘は横道に足を踏み入れた。それから住宅街を抜け、公園を越え、団地の敷地内に入って、本当に小さな公園に着いた。そこに、自転車はあった。娘はそれに乗ると、「ごめんなさい」も「ありがとう」も言わずに自転車を走らせてその場を去った。残された私は、iPhone を灯りに使って辺りを見回してみた。公園の看板には確かに「むこのそう(当て字なのか、ちょっと思い出せない漢字で書かれていた)・子供広場」とあった。

 それからまた30分間一人で歩いて、自宅にたどり着いた頃には8時になっていた。娘はもう風呂に入っていた。自転車は戻ったが,なぜ自転車を公園に置きっぱなしにして、犬と歩いて家に戻ってきたのか、やっぱりわからない。

 23歳になった知育障害の娘とのクリスマス・イブだった。うちの娘はこういう娘である。


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posted by Yas at 23:15| Comment(0) | 非科学的日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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