2012年05月08日

分子細菌学いらっしゃいませ

 5月19日に微研/iFReC の合同説明会・見学会がある。26日には大学院医学系研究科の説明会も控えている。

 日頃アホ話ばかり書いているこのブログだが、そもそもこれは大学院入学を志望されるような外部の方々に研究室の活動をお伝えするために始めたものなのだ。今日は初心に返って、当研究室の目標や活動などを書くことにする。「細菌学」とか「毒素」とか「阪大」とか「微研」とかのキーワードで本ブログに行き当たった大学院志望の皆さん方、今夜はラッキーですぜ。

 当研究室の研究分野は細菌学の範疇に入る。しかし細菌学だ、ウイルス学だ、寄生虫学だ免疫学だと専門領域の壁などを意識して研究などしていられないのが昨今の感染症領域の学問の実情である。どんな感染寄生体を材料に使うにしても、寄生体と宿主の相互認識と応答の結果、感染が成立したり感染防御機構が発動して感染が不成立に終わったりで、すべての感染現象は宿主(動物・植物の別を問わず)で認められる生命現象を通じて繋がっているのである。ということを前提に、、それでもわれわれは細菌学をやっている。

 では何故細菌を研究するのか? 私なりに理由がある。細菌感染とウイルス感染や寄生虫感染のあいだには明確な違いがあるからである。ウイルスや寄生虫は、程度の差はあるが、己の生活環のなかに宿主寄生期があり、この時に宿主に病気を起こす。その病態は寄生組織に概ね依存する。肝炎ウイルスは肝臓に寄生するし、マラリアは寄生した赤血球の破壊に伴って種々の病態を現すというように。つまり病気を起こすほとんどのウイルスや寄生虫は、種の維持のために生活環を回しているあいだに、たまたま(やむなく?)病気を起こしているように見える。ウイルスや寄生虫に悪気はないのである。

 一方、病原細菌には悪意がある。病気を起こそうという意図が存在する、と思わざるを得ないような、自己の増殖や種の維持とは関係のないところで宿主に病気を起こす例があまた存在する。典型的な例は、破傷風、ボツリヌス中毒、ブドウ球菌食中毒のような細菌毒素による病気である。主要な細菌毒素は、細菌の存在とは関係なく、毒素のみで宿主に病気を起こす。その病気は、毒素を産生する細菌の生活環とはなんの関係もない。そして、細菌毒素や病原因子の遺伝子を破壊した細菌株は、ほとんど例外なく親株と同様に環境中や場合によっては宿主内でも増殖することができる。その好例は大腸菌である。思い出していただきたい。分子生物学で遺伝子の操作に用いるK-12株やB株は、たとえば出血性腸炎を起こす腸管出血性大腸菌(0157とか、、)と同じ大腸菌なのである。前者は病気を起こさず、後者は重篤な病気を起こす。そしてその原因となる病原遺伝子のいくつかを破壊しても、腸管出血性大腸菌は病原性は失うものの、生存・増殖能(viability)はK-12株と変わらない。つまり、病気を起こす遺伝子は大腸菌の生存にとって特に必要なものではない。では何故そんな病原遺伝子を持っている? 病原細菌には病気を起こそうという意図があるからだ。そんな風に思えて仕方がない。
 われわれの身体は数十兆個の細胞で構成されている。その身体の腸や皮膚や髪の毛などに寄生・付着する細菌数は数百兆個におよぶ。つまりわれわれは、自身を構成する細胞の10倍の細菌にとりつかれていても健康なのである。それらの細菌は非病原性だからだ。これに対して、わずかな菌量の病原細菌にさらされると、我々はあっさり病気に陥る。たくさんの非病原性寄生体に囲まれていながら健康で、わずかな病原性寄生体に暴露されて病気になる。こんな著しい対比をなす感染現象は、細菌感染にしか見られない。そもそも同じ種に属する寄生体のなかでも「病原性」と「非病原性」に区別するような概念がウイルスや寄生虫にあるのかどうか、、、、少なくとも私は知らない

 その「病原性」と「非病原性」を区別するのは、細菌ゲノム内(プラスミドを含む)の病原遺伝子の存否である。生存・増殖に関係がないのに、なんでそんな病原遺伝子が存在するのだろうか? その意味を考えたり調べようとしたりするのは面白い、と私は思っている。

 たくさん書いちゃったので続きはまた次回。今回はとりあえず「細菌の面白いところ一般論」ということで、、。

:ウイルスや寄生虫の専門家の先生方、ご意見いただけましたら幸いです。

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posted by Yas at 22:21| Comment(0) | 科学的日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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