先週金曜日のこと、。見たことあるような名前のドイツ人から、「あなたが送ってくれた毒素の遺伝子でこういう仕事ができあがりました。これもあなたのおかげですありがとう」とお礼のメールが届いた。投稿論文(おそらく J. Biol. Chem. 用だ)とおぼしき原稿が添付されている。見ると、いままさしくきむじゅんの仕事でまとめている論文のタイトルとほとんど同じ内容を示すタイトル。あちゃー、、やられちゃったじゃん。
早速、研究室メンバーに
「みなさま、もたもたしてるとこういう事になります、,,,」と本文をつけて回覧する。
しかたない、と。原稿を読み進んでみると、、、、、、内容はわりとへっぽこ。実験方法がまずいし、それを補うためか、ディスカッションの論理展開も破綻している。決定的なことに、結論もどうやら間違っている。
あ、これならうちの仕事の方が圧倒的に勝ってるかも、,。落ちついて論文を作って遅れて投稿しても大丈夫だ、,。ほっと胸をなで下ろす。
ところがっ! 次の日の土曜日。
カミちゃんからの連絡でPNASにわれわれがまさにやっているPMT(パスツレラ毒素)の仕事とドンぴしゃの論文が出たということがわかった。投稿したグループは、ドイツの毒素研究の重鎮、Dr. Aktories のグループ。この人達とわれわれとは、ことあるごとに競合する関係だ。2年前はPMTの構造解析で一発かましたのだが(うわさではこのとき、Aktories は怒りまくってたとか)、今回はやられた格好だ。とりあえず中身を読む。
論文内でとられているストラテジーと実験方法は、われわれのものとほとんど同じ。だが彼らは上手くいき、われわれは上手くいかなかった。運の巡り合わせが悪かったのか、向こうの方がアタマがよかったのか根性があったのか、テクニックが上だったのか、,。この論文の彼らの結論は正しいように思う。PMTの作用機序が解明されたということだ。金曜日の論文と違って、こっちの方はほんとにやられちまったようだ。
日頃、楽しく仕事していると、研究というものが厳しい競争にさらされていることを忘れがちである。だが、現実はこんなものだ。とくに私はいろんなところで(ここにもかいた)よく書いているが、細菌毒素研究というやつは「その毒素の作用機序がわかった時点で終息に向かう」のだ。その後に、エポックメイキングな仕事が展開することはまずない。ということで、PMTそのものを題材にした研究も落ち穂拾いのような研究を残してほかは終息に向かう。これまで研究室のリソースのかなりの部分を割いてやってきたPMT研究も縮小せざるを得ない。スピンアウトして大きな仕事に結びつくものがあるかどうか、、。方向転換を余儀なくされるのは間違いない。私自身、落ち穂拾いのような毒素研究には興味がないし。
さて、明日の月曜日には色々みんなで相談しないと。あ、それと反省も。
今日のエントリのタイトルは自戒を込めて、「敗者には何もくれてやるな」
勝負事のハナシでよく出てくるセリフだ。
お、こんなのもあったな。
「勝者には偶然があり、敗者には必然がある」
まぁ、しゃぁない。 ささ、つぎつぎっ!