2008年01月11日

失敗するのだ


 何日か前の毎日新聞に「待つこと」というタイトルのコラムがあった。
それによると、iPS細胞の山中伸弥教授とホンダ創業者の本田宗一郎さんは「失敗と成功」について同じような考え方を持っている、という。
 山中教授は研究室希望の学生に「実験を繰り返しても9割はうまくいかないことに耐えられますか?」と質問することにしている。本田氏は「成功とは99%の失敗に支えられた1%である」と好んで口にした、というのである。

 まず、この考え方が、二人の優れた賢人の言葉によって初めてたつ真理だとでも云うようなこのコラム氏の前提に驚く。少なくとも実験科学者にとっては、こんなことは常識なのだ。
ちなみに私は「実験なんか上手いこといけへんのやっ! そう覚えとけっ! ボケッ!!」と学生さんに丁寧に説明することにしている。

 実験は上手くいかない。
上手くいかないことを前提にするからポジコンを周到に用意するのだし、他人の持っている成功体験情報をいっしょうけんめい収集するのだ*。そうして、上手くいくような実験系を構築する。

 だが、実験は失敗する。
先のコラム氏は「数多くの失敗を重ねながら、成功するまで辛抱強く待ち続けることが大切である」という論旨でコラムを結ぶ。だが実際はそんなことはない、実験者はポジティブなデータを採るために手を代え品を代え、あくまで前向きである。「待つ」という姿勢はそこにはない(いや、たまには待つこともあるが)。そんな、いわばアグレッシブな態度を研究者に想像するのは、コラム氏のような研究者でない人には難しいのかもしれない。

 失敗しても、それを乗り越えて成功に導くべく努力すること、、これを楽しめますか? 

 これから研究を志す人にはそんな風に尋ねたい。
 

* ところが、どうやらこの「失敗するもんだ」感覚は教えられて会得できるモノではないらしい。口を酸っぱくして「実験は失敗するっ」と何度教えても「上手くいく」ことを前提に実験群を設定して失敗する人がいる。こういう、「上手くいく」感が染みついている人には「失敗する」ことを前提にするのがとても難しいようだ。

posted by Yas at 22:45| Comment(0) | 科学的日常 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする